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音楽研究第4回:音楽のグローバル化とは?

「グローバル化」という言葉は、多方面で使われる一方でその定義が受け手にとって曖昧だったり、さらには発信側もいまいちクリアな像を伴って使っていない可能性があったりするものです。「音楽のグローバル化」も例によってぼんやりとした印象を受けますが、マーケットの拡大など概ね商業的な意味で使われている言葉です。そこで今回はビジネス論ではなく、意外な他分野に着目して音楽のグローバル化を考えます。

『源氏物語』と「世界」

唐突ですが、ここではまず日本古典文学の傑作と名高い『源氏物語』について触れます。みなさんの中にも『源氏物語』を読んだことがある方がいるかもしれませんが、それは文語(古文)でしたか?たいていの人は受験勉強で文語『源氏物語』の一部を読んだくらいで、現代語訳や漫画を通して読んだ方の方が多いでしょう。

『源氏物語』は平安時代の成立以降、確かに日本文学の古典として位置づけられてきましたが、難解なうえにとても長い文章を庶民が読むことは困難でした。それどころか、宮廷の人々や近代の政治家・学者であっても『源氏物語』を読破するのは骨が折れる作業だったのです。それは時代が平安から遠ざかれば遠ざかるほど顕著になります。

明治から大正期に活躍した政治家、末松謙澄は源氏物語の最初の英語訳を執筆した人物ですが、彼が訳したのは十七巻までで「全体は読んでいない」と残しています。それくらい『源氏物語』は近代においても重厚感がある作品でした。

後にイギリスの東洋学者アーサー・ウェイリーが『源氏物語』の英訳『The Tale of Genji』を発表しますが、これは完全版ではなく、まるごと翻訳していない部分もあってある意味独立した作品と言えます。

そして、やっと現代小説の様相を帯びて出版されることになる『源氏物語』を手掛けた谷崎潤一郎は、アーサー・ウェイリーの『The Tale of Genji』を受け取っていました。1939年になって『源氏物語』はようやく庶民にも手の届く存在となり、注目を集めました。その流れが現代にも続いているわけです。

つまり、『源氏物語』が日本人に愛されるようになったきっかけは、それが英訳されたこと、そしてその英訳を読んだ日本人がいたことなのです。『源氏物語』を日本語で読んで日本に触れているつもりの日本人は、実は名作を通して世界を覗いていました。

音楽のグローバル化

現代のJ-POPと呼ばれる「邦楽」は、ほとんどが西洋で確立された音楽理論に基いて制作されています。「和音」や「コード進行」といった音楽の要素はもちろんのこと、五線譜やピアノなどの楽器ですら西洋由来のものです。僕たちは邦楽を聴きながら西洋クラシック音楽の一部分を聴いているようなものとも言えます。

「民族音楽」、「民謡」と呼ばれるものですら、楽器こそエスニックなものが使われていても、リズムの取り方や音階が「西洋風」に再編されていることも珍しくありません

インドネシアにガムランという楽器がありますが、実際のガムランのリズムはとても不規則で、多数のランダムなガムランが集まって独特の浮遊感が生み出されます。ところがホテルなどの観光スポットで演奏されるガムランはやけにリズミカルというか、観光客にとって聴きやすいように一定のリズムで演奏されていることが多々あります。

日本においても、たとえば三味線の楽譜は「文化譜」が使われてきましたが、J-POPに三味線が使われる時は五線譜で表記されていることも増えてきました。和風の音楽を聴き、演奏し、作曲するというあらゆる過程の中で、僕たちは西洋に接しています

ほかに身近な例を出すと、DA PUMPの「U.S.A.」という楽曲が2018年に大ヒットしましたが、これは1992年に発表されたイタリアの歌手のカバー曲です。しかし、原曲よりもDA PUMPのバージョンを知っている人の方がはるかに多いでしょう。

ユーロビートやイタリアの音楽なんて知らない、関係ないと思っている人たちが、自然と「U.S.A.」を通してそこに触れているわけです。

このように、音楽のグローバル化はネット配信の普及など決して市場の話に留まりませんし、さらにはインターネットが普及し出したここ最近の出来事というわけでもありません。「歌謡曲」
が流行っていた時代から日本人は邦楽を通して世界と隣り合わせでした。

まとめと議論の余地

『源氏物語』の庶民への普及が英訳をきっかけにスタートしたように、現代の邦楽を聴いて僕たちは世界と交流しています。それが音楽のグローバル化と言えますが、明らかに「西洋」に傾いていますね。グローバル化はしばしば「西洋化」や「アメリカ化」ではないかと指摘されていますが、どうやら音楽でも同じような議論の余地が残されていそうです。みなさんもぜひ様々な観点からグローバル化について考えてみてください。

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