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音楽研究第2回:へりくだってゆく「街の音」

第2回では、街中に溢れる様々な音がどのように変容してきたのか、そしてそれが音楽にどのような影響を与えてきたかをご紹介します。

3つの街の音

まず、ここでは街中で聞こえる音を大きく三つに分けましょう。

①要求の音
②警告の音
③通知の音

街で聞こえる音は全てがいずれかに属するわけではなく、聴き手や発せられる場によって属性が変わりますし、二つ以上の属性を兼ねることもあります。

たとえば救急車のサイレン。これは遠くから聞いている限り、「どこかで緊急事態が発生して救急車が向かっている」という「知らせ」を聴き手に届けるだけに過ぎません。つまり、③の通知の音になります。

一方、この救急車が向かってくる道路の歩行者や運転手にとって、サイレンは「道を開けてください」という①の要求の音に変化します。

他にも、駅の階段などで鳴っている「ここは改札口への階段です」というアナウンスは、多くの人にとっては階段の存在を知らせる通知の音ですが、目が見えない方にとっては「階段があるので気をつけるように」という意味合いを持つ②の警告の音になります。

音の優しさ

このように主に三つに分けられる街中の音ですが、音の持つ「優しさ」を考えてみるとどうでしょう。

「要求」と「警告」という言葉は同じくらい「キツく」聞こえますね。一方、この二つに比べると「通知」という言葉はまだ優しく聞こえます。そして、街の音はどんどん「優しく」なっているかもしれません。

電話機の音を考えてみましょう。現代で多くの人が持っている電話機は恐らくスマートフォンでしょう。スマホに通知が来ると、普通の設定であれば通知とともにその内容が画面に表示されます。電話がかかってくると、誰からの着信かも分かります。これらは「通知」と日常でも言うように、③の通知の音になります。

ところが、一昔前、たとえば携帯電話があまり普及していなかった時代の固定電話を考えてみると、今ではレトロなイメージのある黒電話の着信ベルの音は「電話を取るように」と求めていると捉えることができます。つまり、電話機の音は①の要求の音から③の通知の音に変化していったわけです。

「誰からの着信か分かる」だけでも気分的に楽ですが、さらにスマホでは着信・通知音を自由に設定できますよね。好みの音で知らせてくれることで、「通知の音」そのものも優しくなったと言えるのではないでしょうか

「優しくなった音」は、「音楽」に変化することがあります。リズミカルなiPhoneの着信音をアレンジした楽曲がたくさん作られているのをご存知な方もいるでしょう。

他にも、以前は個人経営のレストランなどに入店した時にベルが鳴ったりしていましたが、現在ではコンビニに入店した際に印象的なメロディの音が鳴ることが多いですよね。いずれも入店したことを「通知」する音ですが、よりメロディアスになったことで「ファミマ入店メロディのアレンジ」みたいな音楽も生まれるようになりました。

身近だけど意外と気づかない例だと、電車の発車ベルは最近では音楽やジングルが取り入れられています。大阪の環状線なんか特に分かりやすいですね。

発車ベルは本来、「発車するので駆け込まないように」と要求したり、「発車するから危ないよ」と警告したりする音でしたが、メロディに変わることで「発車します」という「通知の音」にへりくだった印象を受けます。

まとめと問題提起

このように、三つに分けられる街中の音は次第に優しい「通知の音」に変化し、さらに「通知の音」の内部でも「優しく知らせる音」が広がっています。そして「優しく知らせる音」が音楽に使われたり、逆に既存の音楽が「優しく知らせる音」になったりしているわけです。

皆さんの周りにはどんな音がありますか?また、「優しくなった」と感じられる音はありますか?ぜひ耳を澄まして街中の音を楽しんでみてください。


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